陣谷温泉 2011.09.25 吉田 頼平 高尾山の山並みの奥にある陣馬山から藤野へ抜けるハイキングコースの中腹に陣谷 温泉がある、そこには小さな温泉旅館が三軒並んでいて、ハイキング疲れに入浴して 帰る人もいる、今年の年一回の囲碁クラブの合宿会場だ、参加者は6名、チヨッピリ 寂しい。
私は定年退職して13年過ぎた、次の年に会社は解散、それ以後も囲碁部は継続して、 今でも月に一度例会で集まり、元社長も横浜から時々参加され、懐かしく楽しい会 ですが、この数年の間に三人の仲間がこの世を去った。彼等と一緒に囲碁研修旅行で 飲んで夜が更けるまで対局した姿が浮かんでくる。
例年の合宿は関東近辺の観光地へ車で遠征するが今年は近場過ぎて、思わず「え、 藤野に温泉旅館があるの!」という始末、まあいいさ、高尾駅から甲府行きの列車 で二つ目の駅で下車、駅から山の中腹にラブレターのような封筒形が見える。いつも ここを通過するとき、不思議に思っていた、藤野には、他に野外芸術館、芸術の道や 県立芸術の家があり時間があれば散策に最適である。
駅に着くと旅館の送迎バスがまっていた、のどかな田舎道を15分くらい走る、人家 のない細く狭い山道に入り、三軒の同じような旅館があり、自然に覆われ、下には栃 名川の小さな清流が見えた、幹事が何故こんな辺鄙な場所に決めたのかわかった。
旅館の人が、碁が好きで特別囲碁室を作りプロの棋士や大学の囲碁部の学生や会社や 町の囲碁好きの人たちで賑わっている、知る人が知る穴場であった。囲碁客は一般客よ り優遇されていた。旅館に着くとまず一局と風呂にも入らず対戦する始末、この囲碁室 は素晴らしい、50人くらい対局ができ、椅子がレーザー張りでまるで、大臣用の椅子 みたいである。
壁には今は亡き藤沢秀行の書があり、有名人の写真やサインの色紙で飾られていた。 広い部屋で本日は我々だけなので伸び伸び夜遅くまで楽しめた、対局の合間をみて 風呂に行く桧づくりの木のかおりのするような風呂で日頃の疲れを流しいやして くれた。
夕食の猪料理や山菜が美味しかった、食後主人が来て囲碁の話しから対局へと移り 我々に指導碁のサービス、腕前はかなりの達人の様に感じた。
ここの囲碁室はすっかり気に入った、しかし禁煙・禁食はしかたがないが、一杯 飲みながらの対局をしたいが残念である。次の朝小鳥のさえずりで起きた、まず 朝風呂へ、窓を開けると山の空気がおいしい、木々の緑がまぶしい、心が癒される。
仲間も起きて風呂の後は対局が続くのである。朝食後帰りの時間まで対局帰りは 旅館の車を断り藤野駅まで散策としゃれこんだ。車で20分だが歩くと一時間、山道 をノンビリ歩き、国道にでる、昔ながらの田舎の風景に出会い小さい頃自分が育った 町を思いだされる。
道に沿って流れる栃名川は、若いときヤマメ釣りにきた、だが雑魚ばっかりで一匹 ニジマスを釣った懐かしい川で水辺に小さな雑魚たちの元気な姿があった。 今年の囲碁部の合宿は近場で何もない田舎だと思っていたが、年のせいか何も観光 せず、自然三昧で気のあう仲間たちと囲碁を楽しめた幸せを感じた。
そこで一句 「濃い緑や、ぶらりぶらり瀧の音」 ―――END――― 2011.6
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