「下北半島でのつり」の想いで                  2009.07 吉田 頼平

 

私は若い頃からの趣味として渓流釣りがある、おもに奥多摩・道志川・大月周辺でヤマメ釣りをしていたが、イワナ釣りに憧れ、或る年の五月に友人と二人で青森県の下北半島に行き、津軽海峡に面した下風呂の近くの易国間(いこくま)で憧れのイワナに出会った。

 

以来、毎年五月になると下北半島に通った、易国間での漁港のそばの小さな常宿には、美しく可愛い感じのする女将さんがいて、夜はスナックのママに変身する、私達は、昼は渓流釣りを楽しみ、夜はスナックで鳥羽一郎の「下北漁港」などを歌い、いつも時間を過ごし楽しんでいた。

 

だが新しい趣味の囲碁を覚えると趣味が釣り竿から碁石に変わってしまい易国間に行かなくなった。先日、テレビで「下北半島の旅」見ていて急に下北半島に行きたくなり釣りの準備をして一人で行ってみた、30年前は上野駅から夜行寝台で行ったが、今は新幹線が

 

でき便利になった。ちっぽけな易国間の町に足を踏み入れて行くと、なつかしい宿に来て驚いたことに、あの美しい女将が別人のようになり老け込んでショツクを受けた、だが、私を覚えていてくれた。近くにはたくさんの沢があり、どの沢にも想いでがある、イワナが釣れない時は山菜や山草を取りに行く自然の宝庫である。

                                        

 

 

 

 

 

 

 

 

                       

 

 

 

次の朝早く宿を出て目的の沢まで山道を黙々と歩いた、昔と少しも変わらず鳥達が私を歓迎しているようであるが、私の脳裏に女将さんの老けた姿が焼け付きはなれなかった。

今回の易国間に来た一つの目的は、昔出会えなかった大物のイワナに出会うことであった、

 

山道を登り、大物のイワナがいると思われる滝壺に着いた、水面を見ると青々水を集めて不気味さえ感じた、私は興奮をして震える手で釣り支度をして一投目の竿を投げた、しかし何の手応えもなかった、何度も繰り返していたが、駄目であった。

 

突然空が暗くなり風が吹きあたりの木々がざわめきだした、後ろのほうで変な音がしたので振り返ると人影か熊か定かではないが何か横切ったような気がした、何か見てはいけないものを見てしまったのか、全身電流が走った様に震えがきた、やがて大粒の雨が激しく降りだし沢の水があっとゆう間に増水して水の色が笹色に濁り始めた、しばらく木陰で休

 

んでいると雨はやんだ、そして青空が戻ってきた。再度つり餌を滝壺に目指して投げた、目印がかすかに動いたので合わせると動く気配がない、多分ゴミだと思っていたらゆっくり動き出したが、手元に寄ってこない、何分か経過したのかわからないが、水面に80pの大物のイワナが表れた、その時私は「あっと」声を発した。

 

そのイワナの口には別の仕掛けの針がついていたのであった、そのイワナをつり上げ、針をとり、しばらくそばの小さな池の中に入れてイワナを見続けた、人間が長い間苦しめてゴメン! そっとイワナを元の滝壺に放流した。私も、このイワナに出会い重荷から解放されたように心が晴れ晴れした。

 

山道を降りながら、現在の自然と別れるのがいやで、泣きたい気持ちになった。(多分 自然はもっと変わっていくように思われる→そのままにしてほしい)

宿に着き早々とひきあげる、懐かしい町と小さな漁港に別れの挨拶をして旅は終わった。

                           ――――END――――

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